へんないきもの

小学生の頃、オランダ坂の近くの書道塾に通っていた。
洋館が建ち並ぶ崖の下、チョット薄暗く湿っぽい場所にその書道塾はあった。指導する先生は痩せて小柄なくせに異常に迫力があるジイサンで、名をトラオといった。塾で指導をしているとき手持ち無沙汰になると釘の頭でゴリゴリと耳掃除をし、児童が不真面目な態度を見せたりすると文鎮で頭を殴り、いくら指導しても同じような間違いを続けていると、「こん馬鹿が何遍言えば分かっとか!」と怒鳴って児童が書きあげた字を朱墨でぐちゃぐちゃにして半紙ごと丸めてポイと捨てるという、子どもにとってはとにかくとても恐ろしい、まさに鬼のような先生であった。しかし、その熱心な指導のお陰で、確かに上達は早かった。その書道塾に通う連中の書いた字は、公民館あたりの生温い講座でお習字を習ってる連中の書いたユルい字よりも格段に巧く、小学校の習字の時間に披露される彼らの作品は、その時間を担当する国語の教師さえも凌駕するかと思われた。トラオ先生はホントに恐ろしかったが「確かにこの先生のお陰で巧くなっている」ということは子どもながらも認めざるを得ず、やはり尊敬せずにはいられなかった。
が、その書道塾にはトイレが無く、男子はもよおしてくると、その書道塾から外に出て、表にある溝、東山手の洋館群(現在でこそ観光地に整備されているが、当時は普通に人が暮らすアパートだった)から続く急な階段の下で立ションするのがルールであった。(女子がどうしていたかは謎)
ある日、その書道塾で恐ろしいトラオ先生に二度書き(一度書いた文字に上から筆を入れて形を修正すること、墨の濃さが違うのでたいていバレる)がばれ、しこたま怒られた。いたたまれなくなり、べそをかきながら涙を隠すように外へ出た。「怒られたから、逃げるために外に出たんじゃない、ちょっとトイレに行きたかったから外に出たんだ」と自分に言い聞かせるように、尿意もないのに件の溝に向かった。そしていざ放尿という段になりふと溝をみると、サクラクレパスの黄土色の絵の具チューブを伏せながらしぼり出したような、長さ30センチくらいの黄土色の平たい細長いヒモがあるのに気がついた。そしてそのヒモ、よく見ると先端は奇妙な半月型、そしてぬらぬらと光を反射させながら動いているではないか!
「これは、”いきもの”なのか?!」学校の図書室にあった動物図鑑にも昆虫図鑑にも魚介類の図鑑にもこんなの載ってなかった!
あまりに奇妙な未知の生物を目の当たりにしたショックで、もう、怒られたことなどすっかり忘れてしまっていた。
ヤツは、コウガイビルだった。


へんないきもの
へんないきものという本を読んだ。この地球に生きる珍妙な生き物をリアルなイラストと軽妙な文章で解説するとても愉快な本。少年の頃、あの書道塾の側の溝で見たコウガイビルも勿論取り上げてある。そして、有明海のケーブシャークこと”ワラスボ”も。
本の帯に描かれているクマムシは摂氏150度から絶対零度、真空にも6000気圧の高圧にも、放射線にも耐えるという驚異の”いきもの”。
コウモリダコ
一部で熱狂的なファンがいるコウモリダコもご覧のようなイラストで紹介してある。
地球上に実在する奇妙な”いきもの”についてちょっと興味がある方の入門書としてお勧めしたい。
【参考リンク】
THE KGB FILES・・・・・KGBとは旧ソ連の秘密警察のことではなく、コウガイビル(Kou-Gai-Biru)の事。
クマムシ ゲノム プロジェクト・・・・・「クマムシは、緩歩動物門 Tardigrada に属する強靭な生命力を持ったナイスな生き物です。」

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